アルプスから高尾山

国際結婚しスイスに5年住んで帰国した主婦が日本とスイスのギャップに弄ばれる

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行く前に心の準備を! スイスのカラオケ事情

ヨーロッパでカラオケに行くとなると、カラオケスナックのように他のお客さんたちの前で歌うスタイルが多いのではないだろうか。

今から10年近くも前にパリのオペラ座の近くで日本式のカラオケボックスに行ったことがあるが、それ以外に個室のものは私は残念ながら見たことがない。

しかし何を隠そう私は無類のカラオケ好き。

つい先日は帰国したての喜びと勢いに任せうっかり1日で3回行ってしまった。



そんな私はスナックで皆の前で歌わなければならないとしても、ちょっと恥ずかしい気もするが歌えてしまう。
今後二度とご一緒することはない方々だし、文化も違う外国人のお客さんがほとんどだし、上手く歌えなくたってシラけられたって旅の恥はかき捨てるのよと我に言い聞かせ今まで何度か海外のカラオケで歌ってきた。



そして今回はスイスのカラオケに挑む。

まだシラフだし通りから店内が見えない作りになっているためちょっと不安だが、店で2杯くらい引っ掛ければエンジンがかかるだろう。


店内に入ると今まで行ったカラオケスナックとは明らかに違う。
そこはスナックというよりレストランで、アカの他人の歌を聴きながら普通に食事を楽しんでいるお客さんもいる。
割と広く50名以上は入るだろうか。
照明は妙に明るい。
そしてステージでリズムをとるためか手を振り回し熱唱するオジサン。


ステージかぁ。
しかもステージには綺麗にウェーブした赤いカーテンが下がっており、その前で歌わなければならないようだ。

今まで行ったことのある店では小さなステージはあっても皆そこには上がらず自分の席に座ったまま歌っていた。


ちょっと緊張してきた。

まだステージに立ってもいなければ歌いたい歌すら決めていないのに。
緊張するのは自分を良く見せようとするからと何かで読んだことがある。
そう考えると自分の自意識過剰ぶりに1人で恥ずかしくなる。
そして赤いカーテンの演出がクラシックすぎて恥ずかしさを助長するわ。



さて、オジサンが歌い終わると、なんとDJ風の司会者まで出てきた。
全身黒でキメた体格のいい30代くらいの男性である。
耳たぶには親指より太いゲージサイズのこれまた黒いピアスがぶら下がっている。


「は〜い、◯◯さんでしたぁ〜‼︎メルシー‼︎」


その店では新しい客がステージに上がるたびに曲名とその客の名前を紹介するDJがいた。
これは予想を遥かに超える恥ずかしさである。

そしてステージに上がる客のジャンルは様々で、常連客らしい自己陶酔型からグループで照れながら歌う外国人留学生グループまで。
歌のジャンルもフランス語のシャンソンを熱唱する人もいれば、最近のアメリカのアイドルの歌を歌う人も。




私は2杯目のビールを飲み終えようとしている。

さて何を歌おうか。

みんな好きな歌を好きに歌っているに違いないのに自意識過剰な私は客層を気にする。
リズムに合わせ楽しそうに体を揺らしながら聴く人もいれば口ずさむ人たちも。
中には歌に負けじと大声で友達と話している人も。
全体的に皆この店を選んで来ているだけあって、カラオケを楽しんでいる雰囲気の客が大半だった。


そしてステージの真ん前を陣取るのは若いアフリカ系、つまりは黒人グループである。
この人たちはやたらリアクションもクールで、あまり表情に笑顔がない。

何でこの店に来て、しかもここに座ってしまったんだろう。
例えば彼らの前でR&Bなんて歌ったら喜ばれるのか、はたまたブーイングを受けるのか。
全く正解がわからない。



この先タイムマシンが発明される日がきたら、私はそのときの自分に質問しに戻るだろう。
何故そんな黒人グループの真ん前で歌うために選曲したのがスパイスガールズだったのか。
今となっては理由はわからないが、私は曲の入力までを担当するDJに『スパイスガールズ、Wannabe』と書かれた紙を渡した。
書かれたってか自分が書いたに違いないのだが、私よ、何故それを選んだ?
紙が自分の手を離れた瞬間に後悔が始まった。




そして15分ほど待っただろうか。

DJが私の席までやって来てカラオケの音にかき消されぬよう耳元に話しかけてきた。


「次はあなたの番です。準備はいいですか?」


「は、はい。じゅ、準備ばばば万端です」


「1人で歌えますか?ヘルプは必要ですか?」



ヘルプ?アジア人だから英語が苦手だろうと思われたのか、DJだけにラップのパートをやってあげるぜっていう親切な申し出だったのか、その真意は謎だ。
ラップなら私がやりたかった。
カラオケでglobeを入れるのはKeikoではなくいつだってマークパンサーをやるためだ。
ちょっとDJに敵意が芽生えた。
これ、今になって考えてみれば私は1人でメンバーが5人もいるグループの歌を歌おうとしていたのだから彼はただ的確なオファーをしただけだったのだ。
緊張のせいでテンパった可哀想なアジア人客は答える。



「ののノン!メルシー!」




そして私はDJに名前を呼ばれステージに上がった。
その後の数分間で起こったことのうち思い出せるのは、目の前の黒人たちがちょっと身体を揺らしてノッてくれていたことと、誰かが「振りも付けて〜」と叫んで会場を盛り上げてくれたこと。


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無事に私の初舞台は幕を閉じた。
歌っている最中の記憶はあまりないが、ツレがちゃっかり撮っていた動画はパソコンの中に入っているはず。


今のところ見返す予定はないが、削除する予定もない。