スイスでアパートを引っ越したときのお話。
約1年半の辛抱の末、厄介なオバサンが住んでいたアパートを引っ越すことに。
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引っ越せることは嬉しかったが、引っ越し作業自体はめんどくさかった。
そんな私は都合よく身重。
妊婦特権を濫用し、引っ越しは旦那に存分に働いてもらおうと企んでいた。
自動車の国際免許も右側走行が怖いからと更新していなかった私は車すら運転できず、旦那にとっては本当に1つ増えたお荷物でしかなかった。
その上、元のアパートが広場に面していたため車両の侵入が制限されていたので、車が通れる場所まで坂道を歩いて荷物を運ぶというこれまた非常に面倒なことをしなければならなかった。
私は旦那が地道に道路際まで運び出した荷物の見張り番に任命された。
日用雑貨が入った袋がいくつかと、旦那が使用していた幅が私の身長ほどもある書斎机が坂道を登り切ったところにあったベンチの隣に置かれた。
歩いて10分ほどの距離の引っ越しだったので、荷物のまとめ方は適当で乱雑だった。
あとは旦那が車を取りに行ってここに戻るのを待つのみである。
天気が良くてよかったなぁとベンチにどっかり座って空を見上げていると、誰かが坂道を上ってくるのが見えた。
頭はボサボサ、足元はフラフラ、その手には例の広場にたむろする中毒者のトレードマークにもなっているアルコール度数の高い缶ビール、その名もナビゲーター。
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その足がこちらに向かっている。
どうしよう。
キッチン用品の入った袋からお玉やらフライパンやら飛び出ているのが見える。
それらを盗もうとしているのか。
しかし料理をしそうな人には見えない。
それでも性別はおそらく女性だし料理好きかも。
飛び出たフライパンを持って殴りかかって来たらどうしよう。
彼女が近くに来るまでの数十秒の間にいろいろな可能性がものすごい速さで頭を巡った。
自分の心臓の音が聞こえる。
そして近づいて来た彼女が1人で何やらぶつぶつと話しているのも聞こえた。
ヤバいってこういうことを言うんだな。
そして彼女は私と、旦那の書斎机を隔ててはす向かいにあったベンチに腰掛けてしまった。
ヤバい。
手に持っていたビールはすでに机の上に置いてしまった。
更にヤバい。
バリヤバ。
とりあえずこのオバちゃんと一杯やる気なんてさらさらない。
私の中でそれだけが真実だった。
したがって拙いフランス語ではあるが、勇気を出してケンカを売る決心をした。
私に言えることはただ一つ。
C'est à moi. セタモア。
= これ私のものです。
私「C'est à moi.」
オバちゃん「s△a%○☆>#」
私「C'est à moi‼︎」
オバちゃん「a%x$t○☆モジャ」
私「・・・ セタモアああああぁ‼︎」
オバちゃん「s△a%◇<モジャマジャ〜‼︎
モジャ…」
そして彼女は1人でぶつぶつ言いながら缶ビールを持って立ち去った。
旦那を待っていたほんの10分ほどの間に起こった出来事。
謎の中毒者に負けず書斎机を死守した私。
身体は恐怖と興奮で震えていたが、思わず勝利の高揚感が顔の表情に出てしまう。
1人でにやけていたら旦那が到着。
今の数分の間に起きた出来事を話すと彼はとても喜んだ。
こんな逞しい女を人生の伴侶に選んだ俺の目に狂いは無かった。
そう思ったに違いない。